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脳内物語

 「どうぞのいす」というお話をご存知ですか。

 うさぎが、「どうぞのいす」と書いた立札をつけた小さな椅子を作って大木の下に置きました。そこへ、ロバがやってきて「なんて親切な椅子だろう」と、かごいっぱいに入ったドングリを椅子の上に置き、木の下で昼寝をしました。すると、そこへクマがやってきて「どうぞのいす」と書いた椅子の上にドングリがあるのをみて「どうぞならば遠慮なくいただきましょう」と全部食べてしまいました。するとクマは「空っぽになっては次の人にお気の毒」と、代わりにハチミツの瓶をカゴに入れていきました。そこから、次々と食べては代わりの物を置いていくという連鎖が始まり、最後にロバが目を覚ました時には、カゴの中身はドングリから栗へかわっており、ロバの「ドングリって栗の赤ちゃんだったかしら!」というオチの、子供の絵本です。

 譲り合いと思いやりを教えてくれる、とてもいい絵本です。

 最後のロバのオチも好きです。

 先日、娘がこの写真の何も文章が書いていないページ(うさぎが椅子を置いて帰るところ)を見て、「言葉がなくなっちょん!」と言いました。元々何も書いていないページですが、娘の中ではこのページにも物語が書いてあったのです。

 保育園で絵本出版社の福音館の人が話をしにきた際に、子供は絵本を読みながら頭の中で物語を独自に構成し、リアルに想像しているという話があったそうです。まさに、このとこなんだと思いました。きっと、娘の中ではこのページには物語があり、うさぎの心境や誰が使うのかドキドキしている様子が言葉として浮かんでいたのかもしれません。本読みで子供の脳内にそんなことが起こっているとは知りませんでした。

  確かに、よく絵本には何も書いていないページがあります。それは、子供が独自のストーリーを構築するために必要なページだと知りました。

 強引かもしれませんが、少し建築にも通じるものがあるのかなと。

 ハッキリと用途を決められた建築では息が詰まりますが、外でもない内でもない曖昧な空間や、廊下でも部屋でもないスペース、溜まりなど、敢えて意味を持たせないフレキシブルな空間を混在させることで、目的以外のオリジナルな用途が生まれます。ハードで型を決めてしまうのではなく、オリジナルのストーリーを描ける建築は、魅力的な建築と呼べるのではないかと思います。

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